ベトナム戦争映画『帰郷(1978年)』は人妻とベトナム帰還兵の恋愛を描くウーマンリブ映画だった

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帰郷 サリーとルーク 戦争

この記事で紹介するのは、ベトナム戦争映画『帰郷』です。

なんで、いまさら、こんな40年以上昔の映画を見て感想を書くのかというと、ぼくは、時々、無性に古い映画が見たくなってしまうからです。
年を取ってしまったせいか、見るととっても落ち着くんですよね。
ぼくは、どんどん進化して便利になっていくテクノロジーに目を回したり、困惑したりしながら、日々を汗かき生きている種類の人間なのです。

だからなのか、ステッペン・ウルフのワイルドでいこう!(ボーン・トゥ・ビー・ワイルド)(Born to Be Wild)のような格好いい昔の音楽が使われていたり、古き良き時代の空気を切り取った映像が流れていると、無条件で楽しい気持ちになってしまいます。

でも、この『帰郷』という映画は、単純に懐かしいだけではありません。
男性からすると少しばかり身構えて見てしまいがちな、ウーマン・リブについて描かれた恋愛映画でもあります。

『帰郷』の主人公は、ベトナム戦争に行った夫の帰りを待っている妻です。
彼女は、夫がいない間に夫以外のベトナム戦争帰還兵と仲良くなってしまい不貞を働いてしまうんですね。

そして、その事実が、ベトナム戦争から帰ってきた夫(しかもPTSDを患っている!!)に知られることになり……

『帰郷』は、決してドロドロした三角関係的な映画ではないのですが、後半の修羅場的な展開は、とてもスリリングです。

果たして、生き延びたままジェーン・フォンダ演じる人妻のウーマン・リブは達成されるのでしょうか。

『帰郷』は、今、鑑賞しても面白い映画です。(ちょっと不謹慎な紹介の仕方かもしれないですけれど)

そして、ウーマン・リブ映画というのは、その一方で、衰退していく男性の姿が見られる映画でもあると思います。

その意味では、落ちぶれていく男性の悲しさ、切なさを感じたり、それに共感したりすることもできるのです。

それでは、『帰郷』について紹介したいと思います。

映画タイトル 帰郷
原題 Coming Home
制作国 アメリカ合衆国
公開年 1978年
監督 ハル・アシュビー
原案 ナンシー・ダウド
脚本 ウォルド・ソルト
ロバート・C・ジョーンズ
主なキャスト
(特別完全版の吹き替え)
ジェーン・フォンダ
ジョン・ヴォイト
ブルース・ダーン
ロバート・キャラダイン
ペネロープ・ミルフォード
ロバート・ギンティ
デヴィッド・クレノン

etc.

描かれる
年代と舞台
ベトナム戦争後期
1968年~
人気・注目度
GKV
(2020年8月時点)
★★
『帰郷』5400
『帰郷映画』1000
(帰郷で5400ですが、映画を検索しているとは限らない。
また、同名の2019年公開の日本映画があるため★2つ)
視聴できる媒体
(2021年5月時点)
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ぼくは、ベトナム戦争映画を紹介するのなら、『地獄の黙示録』や『フルメタル・ジャケット』、『プラトーン』だけでなく、『帰郷』を外すわけにはいかないと思います。

ただし、『帰郷』は、ベトナム戦争映画であり、恋愛映画でもあるのです。

いえ、もっと正確にいうなら、
恋愛というよりは、軍人の妻の不貞を通して描かれる人間関係について
の映画でもあります。

そんな『帰郷』は、反戦だけでなく、重層的なテーマを物語に盛り込んだ、アメリカ映画界の底力を感じる作品です。

ちなみに、この映画は、第51回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、

・ジェーン・フォンダが主演女優賞
・ジョン・ヴォイトが主演男優賞
・脚本賞

という3つの賞を受賞しました。
このように、日本では知っている人が少ないかもしれませんが、名実ともに優れた作品なのです。

映画『帰郷』に出てくる人々は、かつて、オール・アメリカン・ガール、オール・アメリカン・ボーイと呼ばれていたようなアメリカの中流階級に属する白人女性と男性です。

中流なので、金持ちでも貧乏でもなく、保守的。

オール・アメリカンは、古き良きアメリカの理想、みたいなものを象徴している存在です。

そんなかれらが、ベトナム戦争によって、今まで寄り添って生きていた『理想』が壊れ、『現実』に直面することになります。

ベトナム戦争映画『帰郷(1978年)』のあらすじ

『帰郷』の主人公であるサリー・ハイド(ジェーン・フォンダ)は、米軍の海兵大尉の夫がおり、貞淑な妻という立ち位置。

サリーは、あまり幸せそうに見えません。

なぜなら、夫のボブは、サリーの気持ちを理解していないからです。

夫の振るまいは、サリーに自分の気持ちや考えがあることに気付いていないように見えます。

サリーの夫のボブ(ブルース・ダーン)がベトナムへ出征することになると、サリーは家に1人きりになります。

1人になったサリーは、何か人に役に立ちたいと考え、退役軍人病院でボランティアをすることにしました。

そこで彼女が出会うのは、ベトナム帰還兵のルーク(ジョン・ヴォイト)です。

帰郷 傷を負ったルークすっかりやさぐれているルーク
(出典:『帰郷』より)

ルークは、サリーの高校の同級生で、体育会アメフト部の元スター。

しかし、そんなルークは、ベトナム戦争で下半身の自由を失い、すっかり屈折した男になっていました。

正義を信じ、国のために戦ったベトナム戦線で負傷し、生きる希望を失ってしまったのです。

ルークは、もはや、自分がお荷物になり果ててしまったことを感じずにはいられません。

サリーは、そんなルークを元気づけるために懸命に話しかけ、食事に誘います。

このような人間的なかかわりのなかで、ルークは人間として再生していきます。

帰郷 サリーとルーク

心を通わせるサリーとルーク
(出典:『帰郷』より)

次第に二人は惹かれ合い、ある出来事がきっかけで関係を持つようになりました。

しかし、そこにサリーの夫のボブが、ベトナムから戻ってきます。

ボブも、ルークと同様に、ベトナムで精神を破壊されていました。

しかも、サリーとルークの関係を、ボブは第三者を通して知らされることになるのです。

と聞くと、物凄い修羅場の予感がありますよね。

でも、そんな単純なものでもないのです。

この映画は、オール・アメリカン・ガールであるサリーや、ルーク、ボブの『オール・アメリカン』という理想が壊れ、皆がそれぞれ、変っていかざるを得ないという苦難を描いています。

サリーは、本当のサリーの姿を見ようとしないボブ(夫)の呪縛から解き放たれようとしています。

夫を支えることだけを要求されたサリーは、自分自身にも考えや気持ちがあることを知り、それに従って生きようとするのです。

その一方で、ボブは、オール・アメリカン・ガールの幻想を妻(サリー)に投影していたので、サリーの変化に困惑しています。

世間体もあるし、妻には仕事なんてして欲しくない。

夫である自分の稼ぎだけで食べさせていきたい。

しかし、サリーの考えは違います。

サリーは籠の中の鳥のままでいるのではなく、自立することを望んでいます。

そして、変わっていくサリーを止めることはできません。

ボブは、オール・アメリカンという理想が崩れ去ったことを受け入れなくてはならないのです。

妻だけではありません。

理想を信じて戦ったベトナム戦争も、ボブの思い描いた理想とはまるでかけ離れていました。

ボブの愛国心はまるで見当違いで、実際にベトナムで広がっていたのは、ただの地獄の世界だったのです。

そこには大儀など、欠片もありませんでした。

ルークも同様です。

ルークは、ベトナムでボブと同じような地獄を味わいました。

なんとか、生きて戻ってくることはできましたが、下半身の自由は戻らないままです。

かれは、もう、以前のような栄光を手にすることはできません。

過去と決別し、新たな自分として、生きる道を探さねばならないのです。

帰郷 ルークの講演ルークはベトナム戦争の体験を若者に伝えようとする
(出典:『帰郷』より)

『帰郷』は、サリーが自分を取り戻していくウーマンリブの映画です。

『帰郷』をウーマンリブの映画として見ると、男性は対照的に力を失っていくことに気付くと思います。

ルークは、サリーのおかげで生きる力を取り戻しますが、ボブの心は壊れたままです。

ボブは、ベトナムでの酷い体験からも立ち直れず、抜け殻のような状態から立ち直ることができません。
(ボブは、サリーにベトナム戦争で体験したことの一部を語りますが、それは、本当にひどいものでした。
言葉だけで映像は出ませんが、ボブが体験したことは、本当に背筋が寒くなるようなものです。)

だからこそ、映画のラストはとても印象的です。

ティム・バックリーの曲『Once I was』が流れるなか、ボブは軍服を脱ぎ、一人で海に入ろうとしています。

かれの姿が悲しすぎて、ぼくは、涙を流してしまいました。

サリーのように生きていくことができないボブにこそ、共感を覚えたからです。

このとき、ボブが海で何をしようとしていたのかは、映画の特典メニュー『インタビュー:帰郷への想い』で知ることができます。

帰郷 海に入ろうとするボブ軍服を脱ぎ、泳ごうとするボブ
(出典:『帰郷』より)

『帰郷』はウーマン・リブを描いた映画なので、女性はすごく楽しめると思います。

でも、ぼくは、この映画は、実は男性にもおすすめだと思っています。

なぜなら、ウーマン・リブが描かれる『帰郷』には、勢いを失っていく男性の寂しさ、哀しさも同時に存在しているからです。

女性が台頭していくなかで、共に輝くことができず、人知れず消えていく男性もたくさんいますよね。
(きっと、ぼくもその一人なのでしょう)

サリー―のように生きることができない人にとっては、ボブのような男の人生を慈しみつつ、かれの人生に想いを寄せる楽しみ方も『帰郷』にはあるのです。

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