メル・ギブソンの出る戦争映画に外れナシ!
というわけで、今更ではありますが、ワンス・アンド・フォーエバーを紹介します。
映画タイトル | ワンス・アンド・フォーエバー |
原題 | We Were Soldiers |
制作国 | アメリカ合衆国 |
公開年 | 2002年 |
監督 | ランダル・ウォレス |
原作 | ハロルド・G・ムーア(ハル・ムーア)中佐 ジョー・ギャロウェイ(UPIの戦地特派員) |
脚本 | ランダル・ウォレス |
主なキャスト (ソフト版吹き替え) |
メル・ギブソン(礒部勉) マデリーン・ストウ(日野由利加) グレッグ・キニア(堀内賢雄) サム・エリオット(佐々木勝彦) クリス・クライン(森川智之) ケリー・ラッセル(大坂史子) ライアン・ハースト マーク・ブルカス スローン・マムセン(あおきさやか) クラーク・グレッグ(大川透) ジョン・ハム ブライアン・ティー パトリック・セント・エスプリト etc. |
描かれる 年代と舞台 |
1965年 ベトナム戦争における イア・ドラン渓谷の戦い |
人気・注目度 GKV (2020年10月時点) |
★★ 『ワンスアンドフォーエバー』1600 『ワンスアンドフォーエバー動画』140 |
もう一度、はい!
ワンス・アンド・フォーエバー!!(テンション高く)
その原題は、『We Were Soldiers』といいます。
『ワンス・アンド・フォーエバー』は邦題のタイトルで、『We Were Soldiers』が、どーしてこんなタイトルになったのか意味が全然わかりません。
でも、先に言っておきますね。
この映画は、ベトナム戦争映画の傑作である、と!!
そして、ベトナム戦争映画としては、結構珍しいタイプの映画でもあります。
というのも、ベトナム戦争といえば、普通は、ベトコン(南ベトナム解放民族戦線)によるゲリラ戦のイメージがあるじゃないですか。
有名どころのベトナム戦争映画、『プラトーン』や『フルメタル・ジャケット』がそうですよね。
しかし、この『ワンス・アンド・フォーエバー』は違うんです。
『ワンス・アンド・フォーエバー』で描かれる戦場は、ベトナム戦争における『イア・ドラン渓谷の戦い』。
イア・ドラン渓谷の戦いは
兵力と火力のぶつかり合い
(出典:『ワンス・アンド・フォーエバー』より)
『イア・ドラン渓谷の戦い』では、アメリカ軍約1,000人の兵隊と、北ベトナム正規軍約4,000人の兵隊の真向衝突が描かれています。
そして、
「どひゃー! か、火力が違いすぎる…! もう、アメリカとはガチのボコり合いはやめよう。これからはヒットアンドウェイ作戦でいくわ」
と、ベトナム側は硬く心に誓います。
アメリカの砲爆撃と、その物量の凄まじさを認識した北ベトナム軍は、『イア・ドラン渓谷の戦い』以降、アメリカ軍に対して真正面から挑むことを避けるようになるのです。
というわけで、『ワンス・アンド・フォーエバー』より後の時代を描いたベトナム戦争映画は、みな、ゲリラ戦となったわけです。
皆さんもご存知、映画『プラトーン』や『フルメタル・ジャケット』で描かれているのは、泥沼のゲリラ戦ですよね。
さて。
そんな『ワンス・アンド・フォーエバー』ですが、この映画も、やはり、その前につくられた戦争映画の超々傑作『プライベート・ライアン』の影響を受けています。
でも、誤解してほしくないのは、この映画は、『プライベート・ライアン』の二番煎じではないということです。
よく戦争映画を褒めるときに、
『プライベート・ライアン』の影響を受けた、
とか、
『プライベート・ライアン』のような、
とか、迫力ある戦闘シーンを褒めるために、『プライベート・ライアン』を引き合いに出す人っているじゃないですか。
戦争映画を褒めるときに、プライベート・ライアンを引き合いに出すのはもちろん構いません。
構わないんですが、引き合いに出しただけで終わってしまうと、
褒めるところはそこしかないんかい!
と、ちょっと食傷気味になってしまいます。
ところが、安心してください。
『ワンス・アンド・フォーエバー』は、数多のプライベート・ライアンの後発映画とは一味も二味も違います。
むしろ、『プライベート・ライアン』の影響を受けつつも、自分たちなりの答えをしっかり返している稀有な映画だと思います。
そもそも、メルギブ(メル・ギブソン)が出てきた時点で、この映画は『プライベート・ライアン』よりもエモーショナルになることは約束されたようなものです。
しかし、物語展開も、『プライベート・ライアン』の影響を受けつつも、素晴らしい。
たとえば、冒頭開始直後にノルマンディー上陸作戦の大殺戮シーンでいきなり度肝を抜くのが『プライベート・ライアン』だとするなら、『ワンス・アンド・フォーエバー』は最初は控えめです。
『プライベート・ライアン』では、のっけから最悪で最狂で最恐の見せ場を見せつけます。
その一方、『ワンス・アンド・フォーエバー』は、最初は穏やかに始まります。
しかし、徐々に戦争の恐ろしさ、悲惨さを観客に見せつけてくるのです。
次第に戦況は悪化していき、気付けば敵に囲まれて、極限状況の真っ只中。
これをじわじわとゆっくりやっていくからホントに怖い。
ジャーナリストで非戦闘員のジョー・ギャロウェイも、戦局が次第に悪化と共に、怪我人の救護や武器まで取らされていきます。
この映画のもう一人の主人公である
アメリカの通信社、UPIのジャーナリスト
ジョー・ギャロウェイ
プライベート・ライアンでジャクソン二等兵を演じたバリー・ペッパーも全く違った役割を演じる
(出典:『ワンス・アンド・フォーエバー』より)
ぼくたちは、ジョー・ギャロウェイの立ち位置が最も近いため、ジョーの目線で映画を観ているはず。
それが、戦闘に参加するのもやむを得ない状況に追い詰められていき……。
気付くと、戦争の地獄絵図の深いところまで、ズブズブと引きずり込まれているのです。
それは、さも、ベトナム戦争の泥沼と同じように……。
このような阿鼻叫喚の地獄の真っ只中で、常に部下を第一に想い、指揮を執り続けるハル・ムーア中佐(メル・ギブソン)の勇敢な姿は涙なしでは見られません。
ハル・ムーア中佐(メル・ギブソン)の演説
「私は、君たち全員を生きて祖国に帰すことはできない。
しかし、これだけは君たちと神の名にかけて誓う。
私が最初に戦場に足を踏み入れ、私が最後に退却する。
誰も置き去りにしない。
死せるものも生きるものも、皆で共に祖国に戻るのだ」
(出典:『ワンス・アンド・フォーエバー』より)
指揮を執るハル・ムーア中佐は、まさにリーダーシップの鑑のような男です。
戦局の悪化とともに、本部は、ハル・ムーア中佐だけは何とか脱出させようと、かれに対して
「戦局を知らせるためにこちらへ戻れ」
と命令を出します。
しかし、
「だれだ、そんな命令を出す馬鹿野郎は!俺は、戦争の真っ最中だ!」
と、本部の命令を撥ねつけるのです。
ハル・ムーア中佐の責任感の強さや部下への想いは、まさに、理想の上司の姿そのものです。
ああ……メル・ギブソンって、本当に良い俳優ですね。
すごくエモーショナルで、こちらの感情を、トップバーテンダーがカクテルをシェイクするかの如く揺さぶってきます。
メル・ギブソンは、プライベートでは問題行動の多い人ではありますが、すごく人間味があります。
かれは、魅力的な人物を演じさせたらピカイチなんです!
ぼくは、画面にメル・ギブソンが出ているだけで、ずっと映画を観ていたくなります…!!
こういうことができる力を持つ俳優は稀有だと思います。
芸術と人格者であるかどうかには必ずしも関連性がないということの、一つの生きた証なのではないでしょうか(笑)
軍人であり父であるハル・ムーア
家族との団欒
プライベートではとても良い父親
子だくさんなのが羨ましいです
(出典:『ワンス・アンド・フォーエバー』より)
『ワンス・アンド・フォーエバー』は、次第に泥沼化して追い詰められていく『イア・ドラン渓谷の戦い』の恐ろしさと、メル・ギブソンの熱演に注目して欲しい映画です。
【補足1】
メル・ギブソンが関わっている戦争映画にハズレはありません。
第二次世界大戦(沖縄戦)なら『ハクソー・リッジ』、
南北戦争なら『パトリオット』、
13世紀のスコットランドの独立のための戦争なら『ブレイブハート』、
荒廃した近未来の戦いなら『マッドマックス』シリーズ。
いつ、どこでの戦いでも、英雄の神話的な活躍譚をその身で表現せずにはいられないメル・ギブソン。
そんなかれが挑んだベトナム戦争を、ぜひとも、その目に焼き付けて欲しいです…!
【補足2】
『ワンス・アンド・フォーエバー』は、ベトナム戦争に参加するアメリカ軍兵士だけではなく、その家族や、敵側のことも描かれた映画です。
それによって、単純な戦争アクションではなく、1枚も2枚もレイヤーが重なり、重層的になっているところも非常に見ごたえがあります。
左から三番目、ハル・ムーアの妻
ジュリー・ムーア(マデリーン・ストウ)
妻も、兵隊の死亡通知において、重要な役割を果たす
(出典:『ワンス・アンド・フォーエバー』より)
【補足3】
ベトナム戦争は、大勢の世界中のカメラマンによって撮影された戦争という特徴があります。
ハル・ムーア中佐率いる第七航空騎兵連隊第一大隊に同行したジョー・ギャロウェイのようなフォト・ジャーナリストは珍しくありませんでした。
実際、日本発のベトナム戦争映画『地雷を踏んだらサヨウナラ』も、戦場カメラマンである一ノ瀬泰造さんの壮絶で鮮烈な人生の記録が描かれています。
『地雷を踏んだらサヨウナラ』は、以下の記事でも紹介しているので、もし興味があれば読んでみてください。
https://www.xn--v8j2chb9819asldzv5cni4c.com/jirai-sayonara/
『地雷を踏んだらサヨウナラ』のように、兵隊ではなく、戦場カメラマンの視点から見た戦場も、また一味違った戦争の姿を見せてくれることでしょう。
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