遅ればせながら、今日は、今年の1月に発売された東京都同情塔についての解説や感想を紹介していきたいと思います。
東京都同情塔といえば、第170回の芥川賞受賞作ですね。
なんで、今頃この作品かって、まあ、そうはいっても東京都同情塔の単行本が出たのも今年の1月のことなので全然遅いということはないと思いますが、今、この『東京都同情塔』についてを語りたいと思ったのは、この作品がAmazonのサービスAudibleで聞けるようになったからなんですね。
いやー、Audibleってホントいいですよね。
実は、これまで文学小説に興味があったんですけれど、ずっと、読む時間がなくて聞けなかったんですよ。
これがぼくの最近の悩みであり、疑問でもありました。
なんで、働いていると、本が全然、読めなくなってしまうんだーっ!!?
いや、ホント、ずっと読めてなくて、本を読みたいのに、読む時間がなくて、疲れて読む気力もないし……
なので、本を買ってはいるものの、ずっと、積読の生活が続いていました。
でも、Audibleを契約して以来ですね
最近のぼくは、文学小説を読めているんです。
まあ、読んでいるっていうか、聞いているんですけど。
ご飯を作っている時とか掃除をしている時とか、お仕事をしている時……
はさすがにできないか、
でも、家事をやっている時や眠れない時なんかにAudibleで文学小説や新書を聞けてすごく嬉しい毎日です。
Audibleは文学小説なんかもかなり充実していまして、芥川賞も直木賞も、文豪の小説もライトノベルも、なんでも聞けます。
って、すいません、今度は話がAudibleの方にそれていってしまったので、元に戻します。
東京都同情塔の方にお話を戻しますね。
第170回芥川賞を受賞した東京都同情塔も、Audibleで聴けるので、これまで芥川賞に興味はあるけれど、忙しかったり、小説を読んだりするのが億劫で読めなかった、という方も気軽に聞くことができるようになりましたので、ぜひ聞いてみてください。
東京都同情塔というか、そもそもなんで芥川賞を読んだ方がいいの?
じゃ、なんで芥川賞や直木賞を読んだ方がいいのか、っていうと、こういう文学賞は世相を切り取ったものなので、単純に物語が面白いからというだけじゃなくて、その年の芥川賞や直木賞を読むことで世相みたいなものを読み取ることができると思うんですよね。
その年の世相だったり、今、この世界でどんなことが起きていて、どんなことが問題となっているのか、みたいな。
ちなみに、直木賞がエンターテイメントの賞に対し、芥川賞は純文学で基本的には無名だったり無名に近い新人の作家に与えられる賞なので、時代の要請によって出現した新しい作家の声を聞くというのは、時代の最先端の考え方を知ることができる、ということでもあるかと思います。
芥川賞を読むことで今やこれからの流行やトレンドを掴んだりすることにも繋がるし、新しい考え方を知ることは私たちの脳に素晴らしい知的興奮を与えてくれるのではないでしょうか。
お仕事をしている人なら、新しいビジネスのヒントももらえるかもしれませんね。
東京都同情塔は時代の最先端を行ってる?あらすじは?
その意味で、九段理江さんの東京都同情塔は、この世界とは違う未来の話でありながらも、非常に現代的な視点で書かれている小説だな、と感じたので非常に良い刺激になりました。
作中に出てくるキーワードやセンテンス一つ一つが興味深くて、いちいち立ち止まって考えたくなるんですよ。
そんな東京都同情塔がどんな話なのかを一言でざっくりと表現すると、
日本人の欺瞞をユーモラスに描いた現代版「バベルの塔」
とAmazonでは紹介されています。
でも、それだけだとどんな内容なのか分からないので、もう少しあらすじを詳しく紹介しますね。
ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。犯罪者に寛容になれない建築家・牧名沙羅は、仕事と信条の乖離に苦悩しながらパワフルに未来を追求する。ゆるふわな言葉と、実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。
んー、これだけだと、よくわからん。
想像できん。
なので、さらにざっくりかみ砕きます。
まず、舞台は近未来(2026年)です。
この近未来では、現実世界では建てられていないザハ・ハディド案の国立競技場が建設されています。
そして、予定通り2020年に東京オリンピックが開催された並行世界の東京が舞台です。
この並行世界に建てられる予定なのが「シンパシータワートーキョー」。
日本語訳すれば、本書のタイトルでもある『東京都同情塔』ですね。
これはタワマン型の犯罪者の収容施設、つまり刑務所です。
東京都同情塔という建物のコンセプト
この塔は、社会学者で幸福学者でもあるマサキ・セトが提唱する思想を反映したものでして、
その思想を簡単にまとめると
2、犯罪者は加害者である前に被害者である。
なぜならば、生まれた環境などによって、犯罪を犯さざるを得なかった人が多いからである。
3、犯罪を犯さずに生きてこられた人は、幸福な特権を持っている。
4、それゆえに、犯罪者も幸福を平等に享受すべき。
ということになります。
東京都同情塔の登場人物(主要キャラ)
この小説では、主人公の建築家、牧名沙羅が「シンパシータワートーキョー」のデザインコンペに参加を決め、ホテルの一室で頭を悩ませるところから始まります。
ただ、この物語は、牧名沙羅の人生の物語というよりは、短い期間における彼女の濃密な思考や気づきの変遷についての小説と言えるかもしれません。だから、ドラマティックな展開は起こりません。
でも、牧名沙羅の思考や気づきは、現代的な問題であったり、これから近い未来に検討されたりすることになる可能性が高そうな問題ばかりで、いちいちハッとさせられてしまいます。
牧名沙羅の言葉や、彼女がナンパして交際が始まる美しい若者との会話などは、一つ一つを吟味して深く考えていきたいものばかりで、こちらの創作意欲を刺激されるようなものばかりでした。
東京都同情塔の見どころ、面白いところ
東京都同情塔では、最近、行われているパパ活やママ活のことやジェンダーにかかわることや、セクシャルハラスメントやスメルハラスメントの問題まで取り扱われており、確かにそういうことって今こそ議論されるべき問題だよな、とうんうんと頷きながら、この物語を読み進める、もとい聞き進めることができました。
生成AI(ChatGPT)で作った文章が5%も入っている
この小説は生成AI、ChatGPTを使って書かれているというところもきわめて現代的で、最先端の技術を小説をつくるための技術として使っているところも興味深いです。
ちなみに、この東京都同情塔は生成AIでつくった文章が5%入っているらしいのですが、その部分がどこなのか考えてみるのも面白そうですね。
5%ってよく考えてみると結構な量です。
東京都同情塔のページ数は144ページなので5%なら7ページくらいは生成AIが書いているということ。
今後、もしかしたら、九段理江さんのように生成AIを使って小説や漫画や音楽をつくる人もどんどん増えてくるかもしれませんね。
東京都同情塔は映像よりも小説で読んでこそ面白い?
繰り返しますが、東京都同情塔の物語は、これからの倫理や配慮されるべき事柄についての考察が牧名沙羅の生活や仕事を通して展開されていくので、何か大きなイベントが起こるというわけではありません。
そのため、映画化には不向きであるように思えます。
でも、だからこそ、小説でしか表現できない奥深さや面白さがあるのではないでしょうか。
もちろん、この物語を映像化することは不可能というわけではないし、東京都同情塔という建物を映像化したら面白いとは思うのですが、この小説は思弁的な物語であるからこそ、読んで、あるいは聞く方がその面白さの本質を味わえるような気がぼくにはします。
最近は、小説も漫画も読むのが面倒になって、ぼく自身はもっぱら映画やドラマ化したら、原作小説そっちのけで映画やドラマを見て本の内容を知った気になっていました。
ですが、東京都同情塔のように小説で読んでこそ、その魅力が一番発揮されそうな物語もAudibleのおかげで気楽に楽しめるようになったのは嬉しいですね。
というわけで、今後は、文学や流行のトレンドを掴むために、東京都同情塔以外にも、最近の芥川賞や直木賞の受賞作品をAudibleで聞いていきたいなーと思っています。
手始めに第170回受賞作の直木賞をとった河崎秋子さんの『ともぐい』を次は聞いてみるつもりです。
それでは、ここまで長々とお付き合いいただきありがとうございました!
これで今回のお話は終わりですが、もし面白いと思ってもらえたら、同じ内容がこちらでも聞けるので、チャンネル登録してまたお会いできたら嬉しいです。
YouTubeチャンネル『秋成秘宝』
今回、ご紹介した九段理江さんの東京都同情塔は、最初にお話したようにAmazonのAudibleというサービスで朗読を聴くことができます。
Audibleは、2024年8月現在、30日間の無料体験から始めることができるので、まずは試しに聞いてみる、というのもおすすめです。
12万以上の作品が聞き放題で、人気の俳優女優、ナレーター、声優の素晴らしい朗読を、家事の合間に、通勤時間の隙間時間などに聴くことができるので、手持無沙汰な時間や耳が寂しい時間が無駄になりません。
独身の人はもちろん、家族みんなで楽しむことができるので、いろいろな本を読みたいけど、毎月何冊も本を買うのはちょっと……みたいな人にもおすすめです。興味がある人は、ぜひ、こちらのページのリンクから試してみてもらえるととても励みになります。
コメント